最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)92号 判決 1968年3月14日
東京都足立区梅田七丁目一五番四号
上告人
東京観光株式会社
右代表者代表取締役
平沼栄
東京都千代田区大手町一丁目七番地
被上告人
東京国税局長志場喜徳郎
右当事者間の東京高等裁判所昭和四〇年(行コ)第三三号更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四二年五月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について。
本件各自動車の所有権の帰属に関する原審の判断は、挙示の証拠に照らして是認することができ、その判断の過程にも所論の違法は認められない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)
(昭和四二年(行ツ)第九二号上告人東京観光株式会社)
上告人の上告理由
原判決には次のとおり審理不尽と採証の法則を誤った違法がありその違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄されるべきである。
即ち、
(1) 上告人は原審において本件自動車の各売買契約の当事者のうち、売主が契約書(乙第一、二号証)の上では上告人となっているが、真実の売主は大沼照喜ら一二名である旨主張し、その立証として右大沼照喜の外平沼相宇、木下三郎、高沢清、川合利明、金原正和、清水博雄、大原相学、木村雄吉、平沼新造、平沼栄の各人証の訊問を求めたところ、原審は右大沼照喜のみを訊問し、その余の人証の取調べをすることなく審理を終結し、しかも大沼証人の証言をたやすく措信できずとして上告人の主張を排斥しているが、右のごとき形式的審理によって当時の本件売買自動車の帰属売買の実体、金員の動きが明確に認定できるものではなく、原審がなした審理は洵に不尽そのものといわざるを得ない。
いわんや、本件の如き行政事件訴訟においては職権で証拠調べをすることができる旨法定(行政事件訴訟法第二四条)されているところに鑑み、一般民事訴訟の審理以上に審理を尽すべきことが要請されているのである。
(2) 本件売買自動車は売買当時上告人がその所有名義人であったが、その真実の所有者は訴外大沼ら一二名のものであり、上告人はこれらのものに名義を貸していたにすぎない。(いわゆる名義貸)
この名義貸は違法ではあるが、当時のタクシー業界では監督行政官庁(運輸省陸運局)から黙認されていたばかりでなく、当時殆んどのタクシー会社において行なわれていた特殊事情があり、このことについては、当時陸運局が行政指導により逐次これを排除しつつあったことに照らしても充分推認できるのである。(前記行政指導については被上告人もこれを認めているところである)
しかるに、原審は前記訴外大沼らが上告人から名義を借りて自己所有の自動車によりタクシー営業をしていたことを単に大沼証人一人の証言をもって、しかもこれに副う同証人の証言があるにもかかわらず、これを敢えて措信せず排斥しているのは審理を十分尽したということにならないばかりか、また採証の法則にもおとるものといわざるを得ない。
(3) 原審における右のごとき審理不尽の違法がなく、十分審理が尽されるにおいては、本件売買自動車の帰属、売買の実体、各所有者に対する代金の支払(甲第一号証乃至一二号証)が認定され上告人に審査請求において認定された利益が存在しなかったことが明らかとなり、結局右審理不尽あるいは採証の法則違反は原審判決に決定的な影響を及ぼすことが明らかなのである。 以上